*ラフマニノフ 交響曲第2番 ホ短調 作品27 (2024年9月22日 第49回定期演奏会プログラムより)

 セルゲイ・ラフマニノフ(1873 - 1943)はとても身体の大きい人で、身長が6.5〜6.6フィート(2m近く)あった。手も大きく、指を広げた長さは12インチ(30cm以上!)。ピアノでは13度のキーに余裕で届いたという(ドからオクターブ上のドの、さらに上のラ)。今日のピアニストでも、届く範囲は9〜10度ほどという人はたくさんいる。インターネットで見つけた情報から、ラフマニノフの手、日本人男性平均値の手、日本人女性平均値の手のイラストを描いてみた。日本人は欧米人に比べて小さめということを鑑みても、その違いに驚く。「ピアニスト、届く指の範囲の一例」というイラストもご覧いただこう。
 ラフマニノフの大きな手で弾かれるピアノの響きは、重厚で豊かで輝きに満ちていた。しかし指先は細く繊細で、それぞれの指の関節がとても柔軟だったので、まるでタコの足のように自在にあれこれの鍵盤を押さえることができたそうだ。作曲とは頭の中に浮かび上がる音楽を楽譜に起こす作業である。音を確認するための道具として、ほとんどの作曲家がピアノを用いた。広い音域をカバーし(13度に届く手が左右二つ)、複雑に鍵盤を操ることができると、それだけで世界は少し変わるのではないだろうか。ラフマニノフの音楽が、快活な曲調でも、静かな曲調でも、つねに色彩豊かなのは、「特別な手」がもたらしたのではないかと考えている。
 ラフマニノフは、貴族の両親の元、ロシア北西のノヴゴロド州に生まれた。4歳のとき、姉の家庭教師が彼の音楽的才能に気づき、ピアノのレッスンを始める。のちにモスクワ音楽院でピアノと作曲を学んだ。このころ出会ったチャイコフスキーに才能を認められ、ラフマニノフもチャイコフスキーを崇拝した。1891年、18歳でモスクワ音楽院ピアノ科を首席で卒業(次席はかのスクリャービン)、1892年には卒業制作にオペラ「アレコ」を作曲し、同院作曲科を首席で卒業している。「アレコ」はチャイコフスキーからも賞賛を受け、ラフマニノフはそのことを生涯誇りにしていた。
 順風満帆なスタートを切ったラフマニノフに大きな挫折が待っていた。1897年、交響曲第1番がペテルブルクで初演されたが、記録的な大失敗に終わったのである。失敗の原因は、指揮のグラズノフが上手くオーケストラを導けなかったからだとも、楽派別の対立があったからだとも言われているが、容赦ない酷評にラフマニノフは傷つき、作曲が出来なくなってしまう。完全に自信喪失したラフマニノフが創作への意欲を回復するのには、3年という歳月がかかった。
 1901年に初演されたピアノ協奏曲第2番は成功を収め、グリンカ賞を受賞、作曲家としての地位も確立された。1902年には従姉のナターリヤ・サーチナと結婚し、二人の娘を授かっている。また、オペラやピアノ曲を作曲しながらボリショイ劇場の指揮者も務めた。公私ともに充実した生活の中、一家で滞在していたドレスデンで誕生したのが交響曲第2番である。1907年に完成し、翌年、作曲家自身の指揮によってペテルブルクで初演され、続いてモスクワでも演奏された。いずれも熱狂的に迎えられ、二度目のグリンカ賞を受賞する。
 陰鬱に始まる第1楽章。空には分厚い雲が垂れ込め、心は鉛のように重い。第2楽章は闘争。運命に打ち勝とうとするかのように、グレゴリオ聖歌「怒りの日」にちなんだフレーズが駆け抜ける。第3楽章は愛。パートナーへの、家族への、友人への、全人類への美しく温かい愛の旋律がゆったりと流れていく。第4楽章は生きる喜び。苦悩を抱えながらも、生きとし生けるものは、なんと光に満ち溢れていることか。
 この曲はたいへん長大なので、短縮版で演奏されることが一般的だったが、全曲版の存在をエフゲニー・ムラヴィンスキーから知らされたアンドレ・プレヴィンが全曲版を演奏するようになり、広く普及した。本日はもちろんノーカット、第1楽章の繰り返しも省かずに演奏する。

(ホルン 吉川 深雪)

編成:フルート3(ピッコロ1)、オーボエ3(イングリッシュホルン1)、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、シンバル、大太鼓、小太鼓、グロッケンシュピール、弦楽5部。。

日本人男性平均値の手    ラフマニノフの手     日本人女性平均値の手

ピアニスト、届く指の範囲の一例

オクターブ:アレクサンドル・スクリャービン
9度:フレデリック・ショパン、ダニエル・バレンボイム
10度:クリスチャン・ツィメルマン
12度:ラン・ラン
13度:フランツ・リスト、セルゲイ・ラフマニノフ

 

 


 

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ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/