*ヴェルディ 歌劇「ナブッコ」序曲 (2022年1月16日 第44回定期演奏会 プログラムより)

 1840年の秋、26歳のジュゼッペ・ヴェルディ(1813−1901)は、失意のどん底に沈んでいました。愛する妻マルゲリータと幼い二人の子どもを相次いで病魔に奪われた上、新作のオペラの公演が大失敗に終わったのです。彼はもう音楽から足を洗おうとまで思いつめていました。ところが、その年の暮れ、ミラノ・スカラ座の支配人から、次の仕事を依頼されます。それが、「ナブッコ」でした。
 ナブッコとは、紀元前6世紀ごろ、現在のイラクのあたりにあったバビロニア王国に君臨していたネブカドネザル王のことです。彼は王国の勢力を拡張して、二度にわたってエルサレムを攻撃し、多数のヘブライ人を捕虜にして首都バビロンへ連行したことで知られています。オペラは、そのエルサレムでの戦いの場面から始まります。ナブッコの二人の娘のうち、姉娘のアビガイッレは自分の母が王妃ではなく奴隷だったという出生の秘密を知って、王位を奪おうとたくらみます。また、妹娘フェネーナは本来は王位を次ぐ地位にあるものの、ヘブライの人質になっていて、敵軍の武将イズマエーレと愛し合っています。
 ヘブライ人との戦いに勝利したナブッコは、自分を神であると宣言した途端、雷に打たれて錯乱してしまいます。そこで実権を握った姉娘に死刑を宣告されたヘブライ人たちが、捕虜としての悲しみと故郷を想う気持ちを歌うのが、第3幕の合唱「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」。序曲の中間部で、オーボエとクラリネットに導かれて、すべての楽器で奏でられる抒情的な旋律です。最後はナブッコが神に許しを乞い、ヘブライ人を解き放つことで幕となります。
 1842年の春に初演された「ナブッコ」は、前作と打って変わって大喝采を受け、60回以上も上演されました。当時、オーストリアの厳しい支配の下にあえいでいた北イタリアの人々が、ヘブライ人の運命と自らの境遇とを重ね合わせて「行け、我が想いよ」の歌に共感を覚えたからだと言われています。
 序曲はトロンボーンとテューバによる穏やかなコラールに始まり、武将イズマエーレを非難する「裏切り者よ」の旋律が続きます。先の「行け、我が想いよ」を挟んで、ほかの幕に現れるいくつかの激しい音楽が交錯し、熱狂的な高まりのうちに終わります。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

編成:フルート 2 (2番はピッコロ持ち替え)、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、テューバ 1、ティンパニ 1、バスドラム 1、シンバル 1、スネアドラム1、弦楽5部。

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/