*リムスキー =コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」 (2022年1月16日 第44回定期演奏会 プログラムより)

 イスラム世界のいにしえの説話集「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」。その中のシンドバッドやアラジン、アリ・ババなどはディズニー作品にもなっているので、ご存じの方も多いだろう。千夜一夜物語に登場する架空の王シャリアールは、イラン高原、メソポタミア、インド、中国まで治める偉大な統治者であったが、留守中に妻が不貞を働いたことを知って憤り、妻と相手の奴隷たちの首をはねて殺す。すっかり女性不信になった王は、乙女を宮殿に呼んでは一晩を過ごし、夜が明けると首をはねるという所業を3年も続けた。都からは若い女性が消えてしまい、大臣も困り果ていたところに、大臣の娘が「私をシャリアール王と結婚させてくださいませ」と名乗りを上げた。「お前は大臣の娘だから見逃されているのだ。おとなしく家にいなさい。自分の力を過信した人間はひどい目にあうぞ」と止める父を説得して宮殿にあがる。「王様と乙女たちを身の破滅から救うための考えがあります。もしも上手くいかなくても、私が乙女たちを救い出す捨て石となりましょう!」。その娘の名が「シェエラザード」である。シェエラザードは、毎夜、王に面白い物語を聞かせた。空が白み始めたところで「続きはまた夜に」と打ち切られるので、物語の行く先を知りたい王はシェエラザードを生かし続けることになるのである。
 交響組曲「シェエラザード」は四つの楽章にわかれているものの、まとまりのある大きな一つの作品であるという印象が強い。それは、全ての楽章に語り部であるシェエラザードのテーマが登場することと、曲の最初に猛々しく演奏されるシャリアール王のテーマが、最後に悔恨と慈悲を伴って現れ、シェエラザードと響き合うことによるものであろう。各楽章には説話を思わせる標題が付けられていたが、最終稿で取り去られた。純粋な交響的作品として聴いてもらう意図があったと考えられている。
 作曲者のリムスキー=コルサコフ(1844−1908)はロシアの軍人貴族の家庭に生まれ、12歳でサンクトペテルブルクの海軍兵学校に入学し、ロシア海軍では艦隊による海外遠征にも参加している。本日の演奏者にはかつて海上自衛隊に所属していたというメンバーがいて、とても興味深い話を聞かせてくれた。「私はシェエラザードの解釈より、どちらかというと海での航海を表現したリムスキー=コルサコフに共感を持ち、この曲を若いころからよく聴いていました。海の感じがものすごくリアルに伝わってくるんです。私自身、海上自衛隊で護衛艦に乗り、太平洋で訓練したり、遠洋練習航海では太平洋を横断してパナマ運河を通過し、カリブ海や大西洋なんかも船で行きました。大海原に出ると、晴れの日もあれば、台風に追い回されたり嵐に突っ込んだりなんてことも。波が立たない月夜は第3楽章が本当に良く合うなあと感動しました。第1楽章の同じ部分のリピートは船べりを叩く波の音でしょうか。まさしく四方が海しかない船の上。どこを見ても同じで、永遠に航海って感じがします」。

 曲は力強いシャリアール王のテーマで幕を開け、続いて独奏ヴァイオリンがシェエラザードのテーマを奏でる。「おお、恵み深い王様、昔あるところに……」。シェエラザードが語り始めた。
第1楽章 海とシンドバッドの船
第2楽章 カランダール王子の物語
第3楽章 若い王子と王女
第4楽章 バグダッドの祭り 海 船は青銅の騎士のある岩で難破 終曲

(ホルン 吉川 深雪)

編成:ピッコロ 1、フルート 2 (2番はピッコロ持ち替え)、オーボエ 2 (2番はイングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、テューバ 1、ティンパニ 1、バスドラム 1、シンバル 1、スネアドラム1、タンバリン1、トライアングル 1、タムタム 1、ハープ 1、弦楽5部。

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/