*ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 (2019年10月14日 第43回定期演奏会 創立30周年記念演奏会その2 プログラムより)

 ブラームス(1833−1897)のヴァイオリン協奏曲は、交響曲第2番の翌年、45歳の時に書かれました。これら2曲は同じニ長調ですが交響曲第2番がニ長調らしい、明るい牧歌的な曲想であるのに対し、ヴァイオリン協奏曲ではその旋律の中に短調的哀愁が感じられ、ニ長調の中でのその陰影が大きな魅力の一つでしょう。この哀愁漂う曲想だけで彼の天賦の才能は十分に感じられるのですが、それだけではなく、作曲された19世紀という時代背景の中でブラームスは親友である天才ヴァイオリニスト、ヨアヒムとともに、この曲で大きな挑戦を行っています。
 二人が活躍した19世紀で主流になってきたのは、リストやワーグナーに代表されるドラマチックな物語や、美しい情景を音楽で表現しようとする音楽でした。しかしブラームスとヨアヒムが目指したのは文学などの音楽以外の要素を排除し、純粋に楽器による表現だけで音楽をつくること。音そのものを大切にすることでした。
 また当時はヴァイオリンの奏法が確立され、華やかな名人芸が人々を魅了する時代となっており、例えば、超絶技巧の持ち主サラサーテのために書かれたラロのスペイン交響曲や、悪魔と言われた超人的なテクニックの持ち主パガニーニのヴァイオリン協奏曲などは、ソリストが派手に活躍します。しかし、このブラームスのヴァイオリン協奏曲は、ソロパートだけが派手な動きを見せるのではなく、ソロパートとオーケストラが緻密に連携し合うという音楽を目指しました。
 結果、二人の天才が音楽の本質を求め生み出したヴァイオリン協奏曲は、交響楽的で複雑重厚であり、そのため独奏ヴァイオリンは常にフルオーケストラと協奏し対峙することになり、ソリストには深い叙情に加え、高度な技術と豊かな音量が要求される難曲となっています。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ 3/4拍子
 全曲の半分以上の長さを占める堂々たる楽章です。独奏ヴァイオリンが登場するまでのオーケストラ前奏もかなり長いのですが、独奏ヴァイオリンの登場を準備する緊張感はそれだけでも見事な作りになっています。この楽章で用いられる印象的な独奏ヴァイオリンの技法として重音(*)があり、この曲を難曲にしている一つの要因でもありますが、「大きな手の人でないと弾けない」とのヨアヒムの助言は受け入れられなかったそうです。
*重音:左手で2つの弦を押さえて、異なる音を同時に鳴らすヴァイオリンの技法。メロディを華やかに演出する際などに使われますが、ブラームスは一つ目の音が出たあと、途中から二つ目の音が重なってきます。音量のバランスや音楽的な表現など、非常に難しいテクニックです。
第2楽章 アダージョ 2/4拍子
 開始早々暫くの間、優美で少し淋しげなオーボエのソロが続きますが、サラサーテは「オーボエだけが美しいメロディを奏でるのを聴いているのは嫌だ」と言って、彼は一度もこの曲を演奏しなかったと伝えられています。しかし、オーボエ奏者から言わせていただくと、師シューマンへの敬愛、その妻クララへの思慕が込められていると評される第2楽章の切ない音楽を独奏ヴァイオリンが表現するための前座でしかないでしょう。中間部でコロラトゥーラアリアの様に揺れ動く気分を切々と訴えかける独奏ヴァイオリンは、この楽器の魅力を十二分に伝えて余りある聴きどころです。
第3楽章 アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェ〜ポコ・ピウ・プレスト 2/4拍子
 冒頭のエネルギッシュな主題はハンガリー風ですが、最後のコーダではトルコ行進曲風に変形されます。最後のトルコ行進曲は「勝利の歌」とも言われ、「独奏とオーケストラの戦いの曲」とも称される本協奏曲の勝者はもちろんヴァイオリン、なのだそうです。
 アマチュアオーケストラ奏者にとって、一流プロ奏者と共演できる協奏曲はかけがえのない楽しみの一つなのですが、指揮者が同じくプロである場合、指揮者とソリストの間で「ぎくしゃくする」、という場面を見ることもしばしばあったりします。しかし、今回はNHK交響楽団で同じ釜の飯を食べる(?)仲良しの吉川先生と白井先生なので、初回より和気あいあいの練習でした。そんな両先生の「阿吽の呼吸」も本日の見どころの一つだと思います。どうぞお楽しみください!

(オーボエ 川瀬 博士)

編成:フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、ティンパニ 1、弦楽5部。

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/