*ベートーヴェン バレエ音楽「プロメテウスの創造物」序曲 (2019年10月14日 第43回定期演奏会 創立30周年記念演奏会その2 プログラムより)

「この3年の間に、ぼくの聴覚はどんどん弱くなりました。医者が薬を処方してくれたけれど、ぼくの耳は、相変わらずゴーゴー、ザワザワと昼も夜も鳴りっぱなしです」。1801年の夏、30歳のベートーヴェン(1770−1827)は、ボンに住む友だちにこんな手紙を書いています。その少し前、彼は交響曲第1番を発表し、音楽家として大きく飛躍をとげ、ウィーンでその実力をようやく広く認められるようになったところでした。
 彼がバレエ音楽「プロメテウスの創造物」を作曲したのは、ちょうどその頃のことです。当時ヨーロッパ中で絶大な人気を誇っていた天才舞踏家サルヴァトーレ・ヴィガーの依頼によるものでした。ベートーヴェンは、序曲と導入部、それに16曲のバレエ曲を書きました。初演は大好評で、2年のうちに23回も上演されたといいます。
 プロメテウスというのは、ギリシャ神話に登場する神の一人です。天界から盗んできた「火」を人間に与えたため、ゼウスの怒りを買って、山の頂きにはりつけにされたといわれます。ところが、ベートーヴェンの作曲したバレエでは、話がかなり違います。プロメテウスは、泥で男女2体の人形をこしらえて、それに生命を吹き込み、人間を作ろうとするのです。ところが、できあがったのは、知性も感情も持たない代物でした。そこで彼は、アポロンやミューズ、バッカスなどの神々の助けを借りて、泥人形を、深い理性や豊かな感情を備えた本物の人間へと変身させるのです。この物語の展開には、当時ヨーロッパで大きな潮流となっていた啓蒙思想の影響が濃いといわれています。
 バレエ音楽「プロメテウスの創造物」の全18曲のうち、現在、オーケストラの総譜が残されているのは、残念ながら序曲だけで、あとはピアノ編曲版の楽譜しかありません。けれども、序曲の次の導入部はのちの交響曲第6番「田園」の嵐の場面を思わせますし、終曲の第16曲目の主題は、交響曲第3番「英雄」の第4楽章で使われた旋律とまったく同じなのです。
 序曲は、ハ長調でありながら、ドミソの音にシ♭が加わるへ長調の属七の和音で始まります。これはベートーヴェンが交響曲第1番で試みたのと同じ手法です。アダージョの序奏のあと、アレグロの主部に入ると、ヴァイオリンが、ドソラシドレミレ、ドソラシドレミレと練習曲のような音形を小さな音で際限もなく繰り返します。それが徐々に高揚して全楽器による最強音に至ったあと、木管楽器が生き生きとした副主題を奏でます。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

編成:フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 2、トランペット 2、ティンパニ 1、弦楽5部。

 

 


 

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