*ドヴォルザーク  交響曲第9番 ホ短調 「新世界より」 作品95 (2017年2月19日 第38回定期演奏会プログラムより)

 この曲はチェコを代表する作曲家であるドヴォルザーク(1841-1904)が1892年から翌年にかけて作曲した彼の最後の交響曲である。数あるクラシックの中でも特に人気が高く、演奏会で取り上げられる頻度が最も高い作品のひとつであり、全編にわたりドヴォルザークのメロディーメーカーとしての才能が遺憾なく発揮されている。
 作曲が開始されたのは、ニューヨークのナショナル音楽院の学長として就任した数か月後である。音楽院を設立したジャネット・サーバー夫人は当時二代目となる新たな学長を探しており、既に世界的名声を誇っていたドヴォルザークに白羽の矢を立てたのだった。彼はこの申し出に対して随分と悩んだが、当時としては法外な報酬と、黒人や貧しい人々も平等に学べるという音楽院の方針に心を動かされて学長就任を決心し、1892年9月にニューヨークに到着した。音楽院近くに居を構え、新しい環境で非常に多くの刺激を吸収していく中で生まれたのが本作品である。
 作品中の主題と、黒人霊歌やインディアンの歌との類似点がしばしば指摘されるが、憶測がなされないように彼自身が釘を刺している。「本作品で再生しようとしたのは黒人霊歌とインディアンの歌である。しかし私は現存する旋律を1つも使っていない。私はただそれらを取り入れた特徴的な主題を書き、それを素材として近代的なリズム、和声、対位法、オーケストレーションにおける新しい知識をもって、様々に発展させていったのである」。この発言のとおり、アメリカで吸い込んだ息吹とボヘミアへの郷愁の双方が見事に統合された作品となっている。
 話はそれるが、演奏会アンケートでリクエストをいただくほど人気の高い本作品。実はアマチュアオーケストラでは、テューバやシンバルの使い方などが特殊なために、選曲の候補から外れてしまうことも多く、創立から25年を迎える当団でも取り上げるのは初めてとなる。
 作品は全4楽章から構成される。
第1楽章 アダージョ〜アレグロ・モルト 緩やかな序奏部を経た後、ホルンによるシンコペーションの第一主題により主要部が導かれる。木管による哀愁を帯びた第二主題を経て、黒人霊歌をもとにしたといわれる伸びやかな旋律がフルートで歌われる。展開部ではこの旋律が主に活用され、次第にクライマックスを形成していく。
第2楽章 ラルゴ コラールによる短い序奏ののちに、コールアングレによって有名な「家路」の主題が奏される。中間部のフルートとオーボエによるはかなく淡い旋律、弱音による印象的な弦楽器ソロなど、様々な主題がコラージュのように現れ、浮かんでは消えていく幻影のようである。
第3楽章 スケルツォ モルト・ヴィヴァーチェ シグナルのような特殊なリズムを持つ主題で始まり、中間部ではのどかな舞曲風の旋律が顔を出す。スラブ舞曲風の快活な楽章となっている。
第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ 有名な冒頭部分は鉄道好きのドヴォルザークが汽車の音を模したと言われる。力強い第一主題が金管楽器によって提示され、盛り上がりをみせた後、優美な第二主題がクラリネットで歌われる。全楽章の主題が断片的に現れながらクライマックスを形成していくが、まるで望郷の思いに沈むかのような管楽器の長い和音で曲は閉じられる。

(オーボエ 吉岡 克英)

編成:フルート 2(ピッコロ持ち替え 1)、オーボエ 2(コールアングレ持ち替え 1)、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、テューバ 1、ティンパニ 1、トライアングル 1、シンバル 1、弦楽5部。

 

 


 

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ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/