*シューマン 劇音楽「マンフレッド」序曲 作品115(2014年3月30日 第32回定期演奏会プログラムより)

「マンフレッドほど、強い愛情と情熱をもって自分自身を捧げた作品は、ほかにありません」とロベルト・シューマン(1810−1856)は、のちに語っていたそうです。「マンフレッド」はイギリスの詩人バイロンの書いた詩劇です。舞台は中世のスイス・アルプス。領主マンフレッドは、自分との不倫の愛ゆえに命を断った恋人のことを思い、悔恨に責めさいなまれています。あらゆる学問を究めたあげく、山の頂きから飛び降り自殺を図った主人公は、復讐の女神の手引きで恋人の亡霊にめぐり合います。けれども、どうしても救いは得られません。僧院長の慰めの言葉も聞き入れず、最後は静かに息絶えるという物語です。数多くの女性たちと浮き名を流し、とりわけ5歳年上の異母姉との愛に苦悩していたバイロンの心情が色濃く投影された、ロマンティックな劇作品です。
 シューマンはこの作品に深く感銘を受け、序曲と「精霊の歌」「ユングフラウの山の中」「アルプスの滝」「恋人との対話」「レクイエム」など15の場面の音楽を書きました。ピアノ曲、歌曲、室内楽など各分野の作品を、短期間にまとめて集中的に作曲したことで知られるシューマンの38歳の年。折りからドレスデンでは三月革命が勃発していました。ちなみに、この革命では、暴動を煽動したかどでワーグナーが指名手配を受け、スイスで逃亡生活を送ることになります。このころ、彼の歌劇「ローエングリン」初演の指揮をしたのはフランツ・リストでしたが、「マンフレッド」全曲も同じくリストの手で、1852年に初演されています。
 曲は、3つの和音の激しい連打で始まり、ゆったりとした序奏では、半音階で上下する音形をオーボエが憂鬱に吹き始めます。熱情的な速さで、と指定された主部に入ると、最初の音形を発展させて、3連符とシンコペーション、付点のリズムを際立たせた第1主題がヴァイオリンに現れ、何度も繰り返されるうち、しだいに高揚していきます。弦楽器だけの穏やかな部分を過ぎたあと、フルートとトランペットが最弱音で和音を奏でて、いったん静かに終息します。展開部では、大きな力で、と指定されたレ-ド#-ソ#の下行音形に続く激しい上行のモチーフが印象的。まもなく、同じメロディを、ファゴットとヴィオラ、チェロがユニゾンで情感ゆたかに歌います。そして最後には、ゆるやかな序奏が回帰して、消え入るように終わります。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

楽器編成 フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 3、トロンボーン 3、ティンパニ、弦楽5部。

 

 


 

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