*ブラームス 交響曲第1番 ハ短調 作品68(2014年3月30日 第32回定期演奏会プログラムより)

 ヨハネス・ブラームス(1833−1897)はドイツ・ハンブルク生まれの作曲家で、指揮者でもあった人物です。市立劇場のコントラバス奏者であった父のもと、音楽を学び始めました。早くからピアノの才能を発揮し、進んで作曲を学ぶなど音楽に熱心に取り組んでいた彼に大きな影響を与えたのが、ロベルト・シューマン(1810−1856)です。シューマンは自らが創刊した音楽評論誌の中で、ブラームスを次のように絶讃します。「合唱やオーケストラの大軍団がエネルギーを注ぐところへ、もし彼が魔法の杖を振りおろすならば、その時、わたしたちは、さらに驚くべき精神世界の秘密を垣間見ることになるだろう」。この讃辞は彼の前途に大きく道を開くことになりました。
 そして、ドイツ・レクイエムなどの作品で高い評価を得るようになったのち、21年という長い歳月をかけて、43歳の時に完成させたのが交響曲第1番です。大器晩成型といわれたベートーヴェンでさえ30歳の時に最初の交響曲を発表していることを考えると、前例がないほど遅いスタートだといえます。また、この事実とともによく知られているのが、当時の指揮者ハンス・フォン・ビューローによる「この曲はベートーヴェンの第十交響曲だ」という評価です。元来ベートーヴェンの交響曲に心から敬服し、その強い影響のもとに古典的な構成の作品を書いてきたブラームスには、「交響曲は何としても書きたい。けれども、ベートーヴェンの九つの作品の後で、いったいどんな曲を書けばいいのだろうか」という思いがあったのでしょう。それに対する見事な答えがこの交響曲第1番なのです。
 実はこれは彼の最初の交響曲ではありません。その前に、1854年に構想された交響曲ニ短調という作品があったのです。しかし彼は計画を変更し、これをピアノ協奏曲第1番やドイツ・レクイエムへと転用します。その後まもなく交響曲ハ短調の作曲を始め、1862年には第1楽章を完成させます。これが現在の交響曲第1番の原型といわれるものですが、彼はさらに長い時間をかけて何度も何度も書き直します。そうして決定版が完成したこの曲は、1876年の11月、カールスルーエ宮廷劇場でオットー・デッソフの指揮によって初演され、続いてブラームス自身の指揮のもとに各地で演奏されて、国際的な評価を高めていくのです。ハ短調からハ長調へというベートーヴェン的な組み立ての中に、ロマン派の交響曲らしい豊かな内容が盛り込まれた作品で、苦しみから歓びへというこの構図はブラームスの人生そのものを表しているように思います。

第1楽章 冒頭はゆっくりと、そして堂々とした序奏で始まります。鼓動のように響くティンパニの確固たるリズムがとても印象的です。この上に、ヴァイオリンが、半音階的に上昇する悲しくも憧れに満ちた強く訴えるような主題を奏します。反対に管楽器は下降しているため、双方が混じり合い、複雑で重々しい雰囲気を創り出しています。この半音階進行は全曲を通じての統一的な基本動機となっており、一貫性を持たせている要因といえます。主部では第1ヴァイオリンが奏する第1主題が徐々に高まりをみせ、その後は木管楽器の第2主題が柔らかく穏やかな表情を見せます。しかし、この穏やかさは直ぐに第1主題へと取って代わられ、再び緊張感のあるクライマックスとなります。
第2楽章 叙情的でとても気品のあるこの楽章は、長調であるにも関わらず、むしろ哀愁を感じさせます。ヴァイオリンとファゴットにより主題が呈示され、続くオーボエは伸びやかで印象的な旋律を奏でます。それに対して中間部は、短いシンコペーションのモチーフを持って伴奏する弦楽器と、点で繋いだような旋律の対話が特徴的です。弦楽器のピチカートの上に、夢のように静かに消えていく独奏ヴァイオリンの音とともにこの楽章は終わりを告げます。
第3楽章 スケルツォでもなく、メヌエットでもない、ブラームス独自の形式ともいえる楽章です。クラリネットの流麗な旋律から始まり、それにホルンの対旋律が絡んでいきます。それと交互にリズミカルな下行音型が現れます。そして明るい響きの健康的な旋律が木管楽器によって奏でられ、クラリネットの主題が戻ってきます。この部分ではすでに第4楽章を暗示するような落ち着いた気分になり、静かにフッと結びを迎えます。
第4楽章 アダージョの序奏を持つ第4楽章は、その序奏部で主部の暗示が行われます。序奏の後半では闇を破るような勇ましい主題が、ホルンの主奏する朗らかで輝かしい音色で響いてきます。続く主部に感じられる幅広さと力強さ、崇高な品位はベートーヴェンの第九を思い起こさせます。この主題に経過句的な第2主題が柔らかく応じ、独立した展開部は無いまま再現部にその性格を持たせています。次第にエネルギーを高めてコーダへと続いたのち、力強く劇的な響きで曲全体が締めくくられます。

(オーボエ 朝倉 佳名美)

楽器編成 フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、コントラファゴット、ホルン 4、トランペット 3、トロンボーン 3、ティンパニ、弦楽5部。

 

 


 

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