*アッペルモント トロンボーンのための「カラーズ」 (オーケストラ版世界初演)(2014年3月30日 第32回定期演奏会プログラムより)

 1973年にベルギーで生まれたベルト・アッペルモントは、1998年に二つの音楽修士号を得てレメンス音楽院を修了した。41歳を迎えた現在、音楽教育、指揮、作曲、各国で行われるワークショップの講師など、精力的に活動している。彼の執筆した音楽教育書がベルギーの多くの音楽学校や小学校で採用されていることは、音楽教育者としての信頼の高さの証であろう。作曲家としても、ベルギーで最も注目される一人である。作品のジャンルは、ミュージカル、 オペラ、劇音楽、オーケストラ曲、宗教曲、合唱曲、アンサンブル曲と多岐にわたるが、日本では吹奏楽のための数々の曲で親しまれている。
 トロンボーンのための「カラーズ」は、ベルギーのベン・ハームホウスト(元バンベルク交響楽団首席トロンボーン奏者)の委嘱によって1998年2月に作曲、同年12月29日に初演された。この独奏トロンボーンと吹奏楽のための協奏曲は、またたく間に吹奏楽団とトロンボーン奏者の重要なレパートリーとなる。たいへんに人気が高く、世界中の熱いリクエストに応えて2008年にピアノ版が発表された。そして本日、オーケストラ版が世界に先駆けて演奏される。
 アッペルモント公式サイトの記載によると、「カラーズ」を作曲する動機は二つあったという。一つめは、黄、赤、青、緑を題材にした独奏曲を作ってみたい、それぞれの色の特徴や色から連想されるもの、感情を技巧的に表現してみたいと考えていたこと。全ての楽章は色に因んで名付けられている。第1楽章「イエロー」人を鼓舞して快活にする(知恵、輝き)。第2楽章「レッド」ダイナミックに、情熱的に、劇的に、激しく怒って戦闘へと向う(勇気、意志の力)。第3楽章「ブルー」憂鬱で、幻想にふけり、内向的になる(真実、平和)。第4楽章「グリーン」望み溢れ、期待に満ちる (均衡の取れた力、調和)。二つめの動機は、趣味でトロンボーンを演奏していた叔父の死であるという。第2楽章に、彼が生涯を終える時の激しい闘いが象徴されている。
 私は、吹奏楽版、ピアノ版ともに、この曲を実際に聴く機会に何度も恵まれてきたが、忘れることが出来ないのは、本日のソリスト吉川武典のソロCD「風花賛礼」のレコーディングに立ち会った時のことである。埼玉県の秩父ミューズパークで2011年3月9日から始まった収録は順調に進み、最終日の11日に「カラーズ」全楽章を録ることになっていた。「イエロー」と「レッド」を録り終え、「ブルー」が始まった数小節後にホールが大きく揺れた。ストッパーをかけてあるはずの480kgのスタインウェイのコンサートグランドピアノがステージを横滑りし、ミキサールームは録音機材が散乱。奏者もスタッフも、ホールの外で余震に怯えながらカーラジオの速報に耳を傾けた。このとき以来、私の中では、激しい地震や津波と「レッド」を、被災後の憂鬱や深い鎮魂と「ブルー」を、切り離すことができないでいる。ホールが再開してすぐ、7月12日に残りの収録は無事に終わったが、被災地や福島のことを見聞きするたびに、望みに溢れ、期待に満ちた「グリーン」 は、いったいいつ訪れるのだろうと思う。「私に何かできるだろうか」と真摯に悩んだあの頃の気持ちを今いちど取り戻したい。

(ホルン 吉川 深雪)

楽器編成 フルート 2、ピッコロ、オーボエ 2、コールアングレ、クラリネット 2、バスクラリネット、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 3、トロンボーン 3、テューバ、ティンパニ、バスドラム、シンバル、サスペンデッドシンバル、スネアドラム、トライアングル、タンバリン、銅鑼、ロートムトム、ボンゴ、カバサ、ヴィブラスラップ、鞭、クラベス、グロッケンシュピール、シロフォン、マリンバ、ハープ、弦楽5部、独奏トロンボーン。

ベルト・アッペルモント公式サイト http://www.bertappermont.be/

 

 


 

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ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/