*ホルスト 組曲「惑星」 作品32(2012年9月23日 第30回記念定期演奏会プログラムより)

 どんなシチュエーションでその音楽を初めて耳にしたか、ということは後の印象に大きく影響を与えると思われます。クラシック音楽に多少なりとも興味を持っている身としては恥ずかしながら、筆者が惑星という曲を知るきっかけとなったのは、日本の歌手、平原綾香が歌う「Jupiter」(2003年)でした。これは、惑星の第4曲「木星」の主題をモチーフとした歌です。そういう形で知ってしまった作品というのは、往々にして最初の感覚から離れることが難しいのですが、個人的には曲のイメージを損なわずに知ることができた幸運なパターンでした。
 個人的な体験はさておき、この組曲「惑星」はイギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(1874−1934)が1914年から1916年にかけてロンドンで作曲した作品です。惑星というタイトルから想像するに、映画「2001年宇宙の旅」のような世界を思い描いてしまいがちですが、実際には天体としての惑星というより、西洋占星術の守護星といた意味合いに近いものです。作品は全7曲で構成され、当時太陽系の惑星として知られていた8つの天体のうち、地球を除いた7つに、1曲ずつ割り当てています。その順序の決め方については、いくつかの説がありますが、冒頭の火星と3曲目の水星を入れ替えると、太陽に近い順になります。

火星 戦争をもたらす者 ダダダ・ダン・ダン・ダダ・ダンという5/4拍子のリズムが、弦楽器のコル・レーニョ(弓の木の部分で弦を打つ奏法)、木の撥によるティンパニによって奏され、曲が始まります。作曲された時期が第一次世界大戦と重なるため、当時の聴衆に戦争における惨状を思い起こさせたのではないかとも言われています。
金星 平和をもたらす者 ホルンのソロに木管楽器が呼応するアダージョと、シンコペーションのリズムの上でヴァイオリンが印象的なメロディーを奏でる中間部から構成されています。ゆったりとした歩調のこの曲は、まるで星の瞬きを静かに眺めているかのようです。
水星 翼のある使者 ヴィヴァーチェ(活発に、生き生きと)という指示のとおり、軽快でリズミカルな楽章です。さまざまな楽器が交代しながらメロディを奏でるため、聴いていて楽しい楽章となっていますが、演奏する側にとっては非常にスリリングな楽章の一つでもあります。
木星 快楽をもたらす者 組曲中、最もよく知られている楽章です。特に中間部のアンダンテ・マエストーソ(歩くような速さで荘重に)の旋律は誰もが一度は耳にしたことがあるのではないかと思います。
土星 老いをもたらす者 ホルスト自身は組曲「惑星」のみが有名になり、他の作品が陰に隠れてしまうことに不満を漏らしていたということですが、この土星については本人も気に入っていたということです。曲全体を通じて厳かで、どことなくオリエンタルな雰囲気を醸し出しています。
天王星 魔術師 冒頭導入部の金管楽器による印象的な4つの音(ソ、ミ♭、ラ、シ。ドイツ語でG、Es=S、A、H)は、グスターヴ・ホルストの綴り(Gustav Holst)の中の音名を表現していると言われています。やはり魔法の箒といえば、ファゴットということになるのでしょう。
海王星 神秘主義者 神秘主義者というタイトルのこの曲は、ほとんどの楽器が楽章全体を通じてppで演奏するように指示されています。永遠の世界に到達する我々には、果たしてどんな音が聞こえてくるのでしょうか。

(クラリネット 吉岡 克英)

編成:Fl.4 (Picc.2, A.Fl.1), Ob.3 (B.Ob.1), Ehr.1, Cl.3, B.Cl.1, Fg.3, Cfg.1, Hr.6, Tp.4, Tb.3, T.Tub.1, B.Tub.1, Timp.2, Cym.1, Sus.Cym.1, Trg.1, BD.1, SD.1, Tambourine 1, Tamtam 1, Tubular bells 1, Glockenspiel 1, Xylophone 1, Hp.2, Cel.1, Org.1, Strings, 女声合唱

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/