*ウォルトン 戴冠式行進曲「宝玉と王の杖」(2009年9月21日 第22回定期演奏会プログラム 創立20周年記念コンサート2より)

 英国人の作曲家であり、指揮者でもあるサー・ウィリアム・ターナー・ウォルトン(1902−1983)は、イングランド北部の音楽一家に生まれました。彼は10歳でオックスフォード聖歌隊に入り、14歳の若さでオクスフォード大学に入学しますが、18歳で中途退学して作曲に専念します。1929年に発表されたヴィオラ協奏曲は、その甘く切ない哀愁をたたえた曲想が人気を博し、彼は一躍、英国クラシック音楽界の第一線にデビューしました。この成功の後も彼に対する評価は高く、主な作品には次のようなものがあります。聖書にでてくる物語を題材にした壮大なカンタータ「ベルシャザールの饗宴」(1931年)、交響曲第1番(1935年)、ジョージ6世の戴冠式のために作曲された戴冠式行進曲「王冠」(1937年)、ヴァイオリン協奏曲(1939年)など。これらの曲は今日でもオーケストラの重要なレパートリーとして、確実に定着しています。
 そして1952年、50歳のとき、ウォルトンは、ジョージ6世の娘であるエリザベス2世の戴冠式のために行進曲を作曲するよう要請されました。ジョージ6世即位の際の行進曲は「王冠」、そして今回は「宝玉と王の杖」と名付けられます。「宝玉と王の杖」は、1953年6月2日、ウエストミンスター寺院で挙行された、クイーン・エリザベス2世の戴冠式に演奏されました。その模様はテレビ中継されたため、戴冠式を見るためだけにテレビを買う人が数多くいたそうです。当初、式をテレビ中継することは不適切だという声も上がりましたが、クイーン自らの指示によって、もっとも神聖な儀式の部分以外のすべてをテレビで見ることができるようになりました。
 この曲のタイトルは、王の力を表わす2つのシンボルを意味していて、これは戴冠式の中で重要な役割を果たします。宝玉(Orb)とは、小さな十字架の下に球体がついているもので、王の庇護の下にあるこの世界を神が支配していることを意味しています。また王の杖(Sceptre)は、王の権力と正義を表わしています。これらのシンボルを戴冠式で用いることは、イギリス王室が1000年以上にもわたって変わりなき存在であることを示しています。戴冠式の最後に、女王は王冠を戴き、左手に宝玉を、右手には王の杖をたずさえて、参列者が国歌を斉唱するなか、ウエスミンスター寺院を退出します。
 この行進曲には、エルガーの「威風堂々」第1番と第4番の影響をはっきりと感じることができます。トランペットによるホ長調の輝かしいファンファーレで始まり、重厚なシンコペーションと華やかなオーケストレーションの行進曲の部分が続きます。そして、彼の作曲した「王冠」と同じように、穏やかな中間部のトリオへと移ります。初めは弦楽器により畏敬の念を持った主題が演奏され、その後、同じ主題が、さらに威厳さを増して繰り返されます。中間部が終わると、シンコペーションのリズムや甲高いトランペットのモチーフ、不協和音などの、ウォルトンのジャズからの影響を感じさせる旋律が続き、その後は中間部の主題の再現部が現れ、さらに荘重に誇りと歓喜を持って歌い上げられます。
 1953年当時、英国は第2次世界大戦後の荒廃と困苦の中から復興しようとしている時期でした。そんなとき、若いエリザベス2世は、人々の未来への希望の星でした。ウォルトンの戴冠式行進曲「宝玉と王の杖」は、そのような時代の、未来への期待や切望、尊厳、誇り、厳粛さ、畏怖、謙虚な心などの気持ちをこめて生み出された作品なのです。

(ヴィオラ エミリー・ブラッドニー)
(訳 フルート 牧田 九乃重)

編成:Fl.3, Picc.(1), Ob.2, Ehr.1, Cl.3, BCl.(1), Fg.2, Hr.4, Tp.3, Tb.3, Tub.1,Timp.1, Cym.1, BD.1, SD.1, タンブリン1, Hp.1, Strings

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/