*メンデルスゾーン 劇付随音楽「夏の夜の夢」より(2007年9月24日 第21回定期演奏会プログラムより)

 木管楽器によって奏でられる幻想的な“妖精のハーモニー”で「序曲」が終わると緞帳が上がります。舞台はアセンズ(アテネ)大公シーシアスの宮殿広間。
 シーシアスは、4日後の新月の宵に行われる女王ヒポリタとの婚礼の儀を待ちわびています。そこに貴族イジアスが娘のハーミアを引きずるようにして登場し、つづいて二人の若者ラインサンダーとデメトリアスが現れました。イジアスはデメトリアスを娘の婚約者と決めていますが、ラインサンダーと愛し合っているハーミアは父親の言うことを聞きません。ラインサンダーは「身分も財産も将来の見込みも劣っていない上、ハーミアの心を勝ち得ている自分の方が有利」と主張し、「デメトリアスは過去にヘレナという娘に言い寄ってのぼせ上がらせている浮気者」と恋敵の不実を訴えます。デメトリアスも「自分こそ正当な婚約者」と主張して譲りません。大公は「娘は父親の決めた相手と結婚しなくてはならない。それに従えない場合はアセンズの法律によって裁かれる。死刑となるか、尼として生涯身を隠すかのどちらかしかない。新月の宵までよく考えるように」とハーミアを諭します。
 ラインサンダーはハーミアに「田舎に住む叔母さんを頼って二人で逃げよう。そこならアセンズの法律も届かない」と駆け落ちを持ちかけました。「もし本当に僕を愛してくれるのなら、あすの晩、家をそっと逃げ出してくれないか。町から一里ばかりのところにあるあの森で、僕は君を待つことにしよう」。「うれしい、ラインサンダー、あたし誓います、あらゆるものにかけて、今おっしゃった場所で、あした、きっと、あなたにお会いします」。
 一方、ボトムをはじめとする機屋、大工、鋳掛け屋、ふいご直し、指物師、仕立屋といった職人達は大公様の結婚式の余興に芝居を演じようと計画をしていました。せっかくの計画が町の人にばれないようにと、やはり翌日の晩、郊外の森の中でこっそり稽古をすることになりました。
 舞台は換わって森の中。軽やかな「スケルツオ」の調べに乗って、妖精達が飛び回っています。森を支配する妖精王オベロンと女王のティターニアは夫婦喧嘩の真っ最中。腹を立てたオベロンは女王へのお仕置きを企てます。眠っている間に瞼に塗ると、目が醒めて最初に見た者(それが例え化け物でも)に夢中になってしまうという“浮気草の汁”を女王に塗ってしまおうというのです。
 ハーミアの駆け落ちを知ったデメトリアスと、彼を慕って追いすがるヘレナが森に入ってきました。デメトリアスの邪険な仕打ちを受けるヘレナを可哀想に思ったオベロンは、「森の中にいるアセンズの服を着た男にも惚れ薬を塗って、ヘレナの想いを叶えてあげるように」と子分のパックに命じます。ところが、パックは間違えてラインサンダーの瞼に塗ってしまいます。そこに偶然通りかかったのはヘレナ! ラインサンダーはハーミアを忘れてヘレナを情熱的に口説き始めます。
 森のカシワの木の下で劇の稽古をする職人達を見て、パックは悪戯心を起こします。機屋のボトムを魔法でロバの頭に変えてしまいました。仲間達はその姿に驚いて逃げてしまいますが、ボトムは気付かずに呑気に歌を歌い、その声に目を覚ましたのは妖精の女王ティターニアでした。
 パックが人を取り違えたことがわかり、まことの愛が不実に変わろうとしていることを知ったオベロンは、慌ててデメトリアスの瞼にも惚れ薬を塗りますが、ますます混乱を招いてしまいます。二人の男性の突然の求愛に、ヘレナは「みんなで私をからかって」と怒りと悲しみに震え、愛する人の突然の心変わりにハーミアは嘆き、ついには決闘騒ぎになるあり様です。そこでオベロンは森を闇で覆いました。身も心も疲れ果てて眠る4人の若者達。「夜想曲」の調べが彼らを優しく包み込みます。
 ロバ頭の怪物に夢中になっているティターニアをさすがに哀れに思ったオベロンは、魔法を解いて仲直り。パックもボトムのロバ頭を外してあげます。ラインサンダーも魔法を解かれ、ラインサンダーとハーミア、デメトリアスとヘレナの二つのカップルがめでたく誕生しました。さあ、いよいよ新月の宵。大公と女王、そして二組の若い恋人達が揃って結ばれることになりました。宮殿広間には「結婚行進曲」が高らかに鳴り響きます。ボトムと職人達はお祝いの劇を披露し、妖精達は祝福の歌で館を清めます。

 「つきせぬお名ごりなれど、今宵は、皆様、これにてお寝みなさいまし。ごひいきのおしるしに、お手を拝借、いずれ、パックが舞台でお礼をいたします」。

 経済的にも社会的にも恵まれた環境に育ったメンデルスゾーンは、幼い頃から文学、絵画、哲学、演劇にも親しんでいました。「夏の夜の夢」はシェイクスピアの戯曲の中でも特にお気に入りで、その神秘的な世界にインスピレーションを得て「序曲」を作曲したのは17歳の時です。33歳の時、プロイセン王の依頼により13曲からなる劇付随音楽「夏の夜の夢」を作曲しましたが、そのエッセンスのほとんどは既に「序曲」に凝縮されています。独創性に富み、鋭い文学的洞察力を持つ、霊感溢れるこの「序曲」を創りあげたのが、わずか17歳の青年とは! 驚嘆せざるを得ません。

(ホルン 吉川深雪)

編成:Fl.2, Ob.2, Cl.2, Fg.2, Hr.2, Tp.3, Tb.3, Tub.1, Tim.1, Cym.1, Strings

 

 


 

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ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/