*ブラームス 悲劇的序曲(2007年9月24日 第21回定期演奏会プログラムより)

「ねえクララ、来てごらん。このひとは、ぼくたちがいままで出会ったことのない新しい音楽を聴かせてくれるよ」

 シューマンは、別室にいた妻に向かってそう叫びました。そこで若者は、いま弾いたばかりの自作のピアノソナタを、もう一度初めから演奏してみせます。20歳のブラームス(Johannes Brahms, 1833−1897)が、初めてシューマンの家を訪ねたときのエピソードです。こうしてブラームスは、一躍世間の注目を浴びることになりました。けれども彼が交響曲第1番を書き上げるまでには、それから20数年の月日が必要でした。もっともそのあとは、あまり間をおかずに第2番を完成。また、ブレスラウ(現在はポーランド領ヴロツワフ)の大学から名誉博士号を贈られた返礼に、「大学祝典序曲」も作曲しました。この「大学祝典序曲」とちょうど同じ時期に作られたのが、きょうお聴きいただく「悲劇的序曲」です。

「悲劇的序曲」の作曲のきっかけについては、いろいろな説があります。たとえば、ゲーテの「ファウスト」の劇音楽を頼まれたからだとか、愛するクララ・シューマンの息子が亡くなった悲しみのためだとか、親友の画家フォイエルバッハが死んだことを悼んでとか、ヴァイオリニスト、ヨアヒムと仲たがいしたせいだとか。ただ、どれが正しいかは、はっきりしていません。

 曲は、強い意志のこもった2つの和音のあと、上行の分散和音で始まる第一主題を弦楽器が奏します。いったん激しく盛り上がったのち、静かなパッセージに続いて、やさしい第二主題がヴァイオリンに現れます。ブラームスの曲はどれも、ヴィオラ弾きにとって楽しい曲ばかりですが、「悲劇的序曲」では、曲の半ば過ぎ、天から舞い降りてくるようなヴァイオリンのゆったりした下降音形に導かれるようにして登場するヴィオラの第二主題の旋律(ファ♯ーシラソ、ファ♯ーミ、ソーファ♯‥‥)は、たとえようもなく美しい(はず)です。どうかお聞き逃しになりませんように。

 初演は1880年12月26日にウィーン・フィルによって行なわれました。もっともその3か月前、クララ・シューマンの誕生日に、ピアノ連弾用に編曲された版が、クララとブラームスふたりの手で披露されたということです。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

編成:Fl.2, Ob.2, Cl.2, Fg.2, Hr.2, Tp.3, Tb.3, Tub.1, Tim.1, Cym.1, Strings

 

 


 

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